2006年度夏学期プログラム
頭のよさとは何か,脳を調べて考える
講師:石浦章一(生物学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系
私たちは、脳を使って考えています。しかし、せっかくの脳を持っていながら適切に使っていない人がいたり、遺伝的素因のためにうまく使えない人もいます。今回の高校講座では、分子のレベルから調べていくと人間の行動や知能についてどのようなことがわかるか、という点について講義します。
高校生と大学生のための東大授業ライブlanguage,languages,そして辞書
講師:トム・ガリー(英語)
東京大学教養学部附属教養教育開発機構
「言語」というものは、舌や唇の動き方から、文の構成、心理や社会との関係まで、さまざまな角度から見ることができます。言語の研究の中で、単語の意味や使用法を説明する辞書の作成は、もっとも地味な仕事に見えるかも知れません。しかし、辞書は外国語の学習や翻訳に必要不可欠な道具であるだけでなく、言語そのものへの窓でもあります。我々が日常的に使う辞書は、どのように作られているか、どのような特徴や欠陥があるか、具体的な例から考えてみましょう。そうすることで、「言語」について、新しい見方が出てくると思います。
高校生と大学生のための東大授業ライブエレキギターは何故しびれるのか:文明論的アプローチ
(引き続き19時20分から900番教室にて「寺内タケシとブルージーンズによるハイスクールコンサート」を開催)
講師:佐藤良明(表象文化)
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻
ギターという楽器は、それなりに古い歴史をもちますが「高尚な音楽」には使われませんでした。音楽文化の中心にいすわるようになったのは20世紀、ポピュラー音楽の時代に入ってからのことです。中南米や北米の庶民の音楽の伴奏を担って人気を集めた。しかしギターの人気がほんとうに爆発するのは、エレクトリック・ギターが発明され、それがロックというジャンルの成立を促してからのことです。
1960年代の文化を語るとき、エレキのサウンドが若者たちを魅了したその吸引力を抜きにして語ることはできません。では60年代初頭のアメリカで、ヨーロッパで、日本で、ロックとエレキはどのようにして、ふつうの若者を魅了していったのか。その過程を簡単にたどりながら、電気回路と感覚回路の合体がもたらす特別な歓びについてお話しします。
江戸の声〜駒場美術博物館で開催中の「江戸の声」展会場内でのギャラリートーク〜
講師:ロバート・キャンベル(国文学)
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻
あちらこちらの路地に響く、三味線の音色と台詞の声。東大駒場キャンパスで開催中の特別展「江戸の声」では、日本近世の都市に生まれ、くまなく全国を流れていた音色と人の声を、絵入り文献と版画・写真・動画などを通して、「聞こえる」ように眺めなおすことをテーマとする。
東京大学の駒場キャンパスに、黒木文庫という演劇書コレクションがある。旧制東京高等学校教授だった黒木勘蔵氏(1882〜1930年)が築いたもので、約3,000点から成る。氏は教務のかたわら、各地へ出向いては音楽文献を調査し、また関東大震災後においては、近世日本音楽を確固とした研究分野に押し上げるほどの功労者でもあり、一代の目利き、本のコレクターでもあった。研究資料として集めた原書の山を前に、私たちは彼の豊かな感性と、熱い野心に溜め息をつくばかりだ。
ところで戦火をくぐった黒木氏の蔵書は、新制・東大教養学部国文学漢文学教室へと移り、以来半世紀以上研究者の間では知られていたが、広く活用される機会がないまま、駒場の銀杏並木に面した静かな一室で眠っていた。展覧会では、歌謡の音曲の正本(しょうほん)と稽古本、浄瑠璃丸本、そして近代にいたる歌舞伎のさまざまなジャンルの資料にいたるまで、黒木文庫と同教室の関連資料から、選りすぐりの100余点を初公開する。また黒木文庫にとどまらず、有数の近世音楽コレクションである国立音楽大学附属図書館・竹内文庫からは数10点の文献と錦絵、国立国会図書館・東京都立中央図書館・国文学研究資料館・早稲田大学演劇博物館等からは多様な作品を陳列し、音楽と演劇が織りなすスリリングな世界を浮きぼりにしている。
動物の形づくりの謎を解く
講師:浅島 誠(生物学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系
私達の体は元々1個の細胞である受精卵から発生して、体の構造が出来てきます。頭には脳や眼などがあり、胴体には心臓・肝臓・腎臓などの内臓や腕・足の筋肉などがあります。それらの各器官はどのようにして作られ、又、統一のとれた形づくりをするのでしょうか。卵から親への形づくりに見られるダイナミックな動きと美しさ、そしてそこに見られる調和や規則性について述べてみたい。カエルからマウスやヒトを含む、脊椎動物に共通の形づくりの仕組みが見えてきます。
高校生と大学生のための東大授業ライブ有理数に近い無理数と有理数から遠い無理数
講師:大島利雄(数学)
東京大学大学院数理科学研究科
円周率πは、3.141592... という無理数ですが、3.14 という近似値のほか、22/7 や355/113 というよい近似分数が用いられます。一方、ルート2は「有理数から遠い」ため、これほどうまいといえる近似分数は見つかりません。
無理数を近似する分数は、「連分数」を使って求めることができますが、その応用として、フェルマーがウォリスに出した問題、すなわち x^2 - 61y^2 = 1 を満たす整数 x と y を求めよ、というような問題を解く一般的な方法を解説します。
国際法,そして国際社会とどう付き合うか?
講師:小寺 彰(法学)
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻
国際社会の法である国際法は、現在では、環境や貿易、また人権などの身近な領域をカバーしている。国際協調主義を基本とする日本国憲法は、国際法に法律よりも高い地位を与えているばかりか、国際法を根拠に制定される法律も少なくない。しかし、欧米では経済分野を中心に国際法への懐疑が生まれている。また国際法ほど守られない法もないというのは前から言われてきたことである。なぜ国際法に懐疑の目が向けられるのか。そもそも国際法はどのように理解すればいいのか。国際法に関する最近の実例を用いて、この点を考えてみたい。
クラスターの科学−ナノメートルサイズの原子・分子の特異性
講師:真船文隆(化学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
昔の高校の化学の教科書には次のように説明されていた。「金属の単体をその性質を保ったまま小さくしていくと、原子になる」。しかし、ここ数十年の研究の成果を考えると、「金属の単体を、その性質を保ったまま小さくしようとしても、原子まではたどり着かない」と言ったほうが正しいようである。金属の単体を小さくしていき、その大きさがナノメートル程度になると、その性質が次第に変わってくるためである。原子や分子からなる塊を切り刻んでゆく、あるいは原子や分子を集めて凝集させることによって、原子や分子が数個〜数千個程度集まった微粒子を作ることができる。これらをクラスターという。これらクラスターは、1個の粒子からなる原子・分子、あるいは相当数集合したバルク(塊)とは全く異なる特異な性質を持つ。さらに、そのサイズ(構成粒子の数)によって反応性、物性、構造が顕著に変化する。バルクでは持たない性質が小さくするだけで発現するようになり、さらにそのサイズを変えることによって、これらの性質がまた変化する。このようなクラスターの「サイズ効果」について説明したい。
高校生と大学生のための東大授業ライブ建築図から見た建築の変遷
講師:加藤道夫(建築学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系
3次元の対象である建築空間を2次元の平面にいかに表現しどのように伝えるかは,古くから重要なテーマでした.また,実際の建築の構想や建設にも建築図は不可欠のものです.そのために,各種の表現法が考案され,またそれに基づいて数多くの建築図が作成されてきました.ここでは,建築図を1)その理論的背景,2)図的表現法の発展,3)図的表現法の建築への応用という3つの観点から考えて見ます.その上で,古代から現代への建築の変遷を振り返ります.
高校生と大学生のための東大授業ライブ韓国の社会と教育制度−比較社会学の視点から
講師:有田 伸(社会学)
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
お隣の国韓国では、中学生が自分の進学したい学校を自由に選べなかったり、またある時期には塾や家庭教師が全面的に禁止されてしまうなど、教育制度に数多くの独自の特徴が存在しています。この講義では、社会の仕組みと関連づけながら韓国の教育制度の特徴を理解し、それを通じて、ひとびとの考える「望ましい教育制度のあり方」は社会ごとに大きく異なっているという事実を再確認していきます。また、韓国を比較の対象としながら、日本の教育制度の特徴を相対的な視点から捉え直していきます。
高校生と大学生のための東大授業ライブ物質の極限状態−原始クォーク物質の探求
講師:松井哲男(物理学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
私たちのまわりの物質は(私たち自身も含め)全て原子からできています。原子(アトム)の存在は遥か2000年以上昔の古代ギリシャ人達も想像していましたが、それが単なる仮説でなく科学的に実証されたのはまだほんの100年前のことです。20世紀に入って物理学は飛躍的に発展し、原子が原子核と電子からできており、このミクロは世界を支配する基本法則−量子力学の存在を明らかにしました。また、物質のほとんどの質量を荷なう原子核は陽子と中性子の強く結合した系であり、それぞれの陽子や中性子は更にクォークと呼ばれる素粒子からできていることが次第にわかってきました。ただ、クォークは電子や陽子のように単体では見つからず、陽子や中性子の中に永久に「閉じ込め」られていると考えられています。しかし、原子核の究極の構成要素がクォークであるとすると、原子核を押しつぶすことができれば、原子核は構成要素のクォークにバラバラに分解した「クォーク物質」に転化するはずです。今日のビッグバン宇宙論では、初期宇宙を充満していた1兆度をこえる超高温の原始物質は、このような極限状態のクォーク物質だったと考えられており、現在それを地上で加速器を使って再現しようという実験も行われています。この講義では、物質の究極の状態について現代物理学がどこまで明らかにしてきたかお話ししたいと思います。
高校生と大学生のための東大授業ライブ