高校生と大学生のための金曜特別講座

金曜特別講座TOPへ 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部

2004年度冬学期プログラム

2004.10.8

21世紀の社会と学問

講師:小森陽一(国文・漢文学)

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻

2004.10.15

アフリカの飢餓と戦う

講師:Gordon H.Sato

生物学米国科学アカデミー会員、元カリフォルニア大学サンディエゴ校生物学教授、W. オルトン・ジョーンズ細胞科学センター名誉所長、A&G製薬取締役会長、マンザナー・プロジェクト代表

皆さんの抱く科学者のイメージはどんなものだろうか?「三四郎」に出て来た野々宮さんのような俗世間とは懸け離れたテーマに打ち込む白衣の人。田中耕一さんのように学位や地位、収入を超越した人。湯川秀樹さんのような鉛筆とワラ半紙と頭脳だけで中間子の存在を予言した人。あるいは、小柴昌俊さんのように巨大プロジェクトを通じて宇宙理解に貢献した人。発光ダイオード研究と特許を連動させる中村修二さんのようなバリバリの大学教授etc。今回、紹介するゴードン サトー博士は、そのどれにもあてはまらない型破りな科学者だ。

ゴードン・サトー博士は、日系二世。彼は戦時中、高校生時代に日系人収容所に送られ、カリフォルニアの砂漠のど真ん中(地名はManzanar)で生活することを余儀無くされた。そこで、彼が考えたことは、荒廃しきった環境で如何に、だれ頼ること無く自らの力でローテクな手段で生き抜くかということだった。戦後、カレッジを卒業し、その先を決められないままに父親の仕事(庭師)を手伝っていた。ある日、CalTechのキャンパスのガーデニングを手伝う合間に近くの建物に入ってみた。偶然出会った教授と話している内に、その研究室の大学院生になっても良いと言われ、入学を決意。その教授とはドイツからやってきた物理学者でバクテリオファージを使った分子生物学の創始者マックス・デュルブリック教授(後にノーベル賞を受賞)だった。

ゴードン・サトー博士は哺乳類細胞の分子生物学的理解を志し、いくつかの重要な細胞株を樹立。さらに、今日の成長因子研究に欠くことができない無血清培養法を確立した現代細胞生物学のパイオニアの一人。彼はブランダイス大学やカリフォルニア大学サンディエゴ校の生物学教授を歴任し、20年以上前から米国科学アカデミー会員。今、彼は、日系人収容所時代に思い立ったマンザナープロジェクトという「荒廃地で人間が生き延びられるローテクな食物供給システムの開発」を目指し、アフリカのエリトリアでマングローブの植林事業を展開している。Dr. Satoの世界観と行動力には学ぶ点が多々あるだろう。

Manzanar project-HPにあるゴードン サトー博士の紹介
(http://www.tamu.edu/ccbn/dewitt/manzanar/default.htm)
2002年アメリカ組織培養学会Public Award授賞式での紹介
(http://www.sivb.org/meeting_2002awards.asp)
(松田良一(生物))

2004.10.22

科学技術の発展と人間社会

講師:廣野喜幸(科学史・科学哲学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系

2004.10.29

心と戦争

講師:高橋哲哉(哲学)

東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻

2004.11.5

すべり運動−生き物の運動とそのしくみ

講師:上村慎治(生物学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系

生き物の運動というと、私たちの筋肉の収縮、あるいは、泳ぎまわるゾウリムシなどをふつう想像する。生物を動物と植物と大きく分けた場合、どちらかと言えば「運動」は動物の得意とする機能のように思えたりする。生物学者も、以前は何となくそんな風に考えていた時代もあった。しかし、そのしくみをよくよく調べてゆくと、「運動」しているのは、筋肉や繊毛だけではないことがわかって来た。同じようなしくみが植物の細胞にすらある。そのしくみが滑り運動だ。滑り運動では、次の2つの要素が必要となる。一つは、細長い繊維状の構造。もう一つは、その繊維の表面に付着し、その上を移動する丸っこい分子である。この丸っこい分子のことを私たちは分子モーターと呼んでいる。電気で動くモーターのように回転はしない。レールとなる繊維の上をリニアモーターカーのように滑ってゆくのが特徴だ。そのしくみがどの様にしてわかって来たのか、アニメーションや記録映像を使って紹介したい。生物進化の歴史の上では、主として3種類の分子モーターが生まれて来たが、なぜか、どれもこれも、同じような滑り運動である。どのようなものがあるか、映像を使って紹介する。

2004.11.12

ヨーロッパ統合を考えるー「新しいヨーロッパ」の視点から

講師:柴 宣弘(歴史学)

東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻

2004年5月、EUの大幅な東方拡大が進み、新たに10カ国の加盟が実現した。新規加盟国はかつて社会主義国であった旧東欧の5カ国、旧ソ連の3カ国と、地中海の2カ国であり、加盟国の数は25カ国となった。さらに、4加盟候補国が控えており、数年後にはEUの加盟国数が30カ国近くになる。このため、拡大EUはさまざまな法整備をしなければならず、新しい基本条約となるEU憲法の制定作業を進めてきた。2004年6月、EU首脳会議でようやくEU憲法が採択された。EU憲法はEU大統領やEU外相を規定しており、これまで以上に共通の外交政策や安全保障政策が強化されることになっている。しかし、EUは国家を超えて一つになりうるのか否かといった大きな問題は依然として未解決のままである。この授業では、こうした大きな問題を考えてみる前に、拡大EUに伴う以下の3点、1.新たに加盟した旧東欧5カ国にとって、EU加盟に伴う問題、2.加盟候補国トルコの加盟に伴う問題、3.未加盟のバルカン諸国の問題を検討し、最後に、EUとアジア、日本の問題を考えてみたい。

16歳からの東大冒険講座・2
2004.11.19

なぜ宇宙を研究するか

講師:蜂巣 泉(宇宙地球科学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系

宇宙のしくみやなりたちを研究することは、結局人間を理解することにつながります。例えば、私たちの体をつくっている原子(元素)はどこでつくられ、どこからきたのか?私たちが活動するためのエネルギーの大もとは太陽という恒星からの光エネルギーですが、ではどうして太陽は数十億年もの長い間、変わらず輝き続けることができるのか?このような問いに、現代の宇宙科学は答えることができます。さらに、最近の天文学は、人類の認識の限界のひとつである、宇宙がどのようにして、いつ始まったか?宇宙の年齢は何歳か? などについてもは答えることができるようになりました。内容としては、恒星の一生と元素の起源、超新星爆発、宇宙の大きさの測定、宇宙膨張の様子などを分かりやすく話す予定です。

2004.11.26

言語と脳から見た健康と病

講師:酒井邦嘉(心理学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系

人間は、宇宙と比較して「小宇宙(ミクロコスモス)」と呼ばれることがあります。人間性や心は「脳」から生まれるので、脳は「内なる宇宙」であるとも言えるでしょう。脳の働きは、最先端の科学でもまだ未知の部分が多く、神秘のベールに包まれています。健康なときには脳についてあまり意識することがないかもしれませんが、脳が病気になると、言葉が不自由になったり、精神的な障害が起きたりします。この講義では、人間の脳の形や働きを外から「見る」ための画像診断の方法を紹介します。そして、最も身近な脳の働きである「言語」を通して、何が人間の本質を決めているのかを考えてみましょう。(参考図書:『言語の脳科学』中公新書)

16歳からの東大冒険講座・3
2004.12.3

文学のたくらみ、翻訳の不思議

講師:エリス俊子(英語)

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻

翻訳とは何か。一人で手記をしたためているときも、小説を読んでいるときも、あるいは友達と対話をしているときにも、私たちはなんらかのかたちで翻訳という作業にかかわっている。内なる思いを文字化するとき、あるいは書かれた文字の羅列を追いながらそこに描かれている出来事を追体験するとき、そして人の話を聞きながらそれを自分の持っていることばの蓄積に照らして理解しようとするとき、私たちは広い意味で翻訳を行っているといえる。 上の例からも明らかかと思うが、いったん翻訳のプロセスを経て再構築されたものは、オリジナルと同一ではありえない。自分の書いたもの、つまり外化されたことばが、自分の内なる思いそのものではないという感覚はだれしも経験したことがあるのではないだろうか。 翻訳は複製物の作成ではなく新たなる創出であるということを前提に、本講義では、文学作品の異言語間(日英)の翻訳にみられる「文化」の翻訳をめぐる問題をとりあげる。俳句や和歌、近現代文学のテクストの翻訳を具体的に検証することからはじめ、多言語状況化する現代ににおける翻訳の意味について考えてみたい。

16歳からの東大冒険講座・3
2004.12.10

21世紀の学力

講師:佐藤 学(教育学)

東京大学大学院教育学研究科

2000年にOECDが実施した「読解リテラシー」を中心とする国際学力比較テスト(PISA調査)の調査結果は、21世紀のポスト産業義社会において要請される学力の国際比較の調査結果として世界各国の教育関係者によって注目された。この国際比較学力テストにおいて対象国32カ国の中で第1位はフィンランド、日本は第8位であった。

PISA調査において想定された「21世紀に必要とされる学力」とは、どのような学力であったのだろうか。そして、フィンランドはなぜ、このPISA調査において他国を引き離して第1位の成績を獲得したのだろうか。

他方、これまで教育の卓越性を誇ってきたドイツの成績はふるわず、第23位という低位であった。この結果は「PISAショック」と呼ばれる衝撃をドイツの教育関係者に与えた。なぜ、ドイツは、これほど低位にとどまったのだろうか。

フィンランド、ドイツ、日本の3国のPISA調査の結果を比較して、21世紀の社会に求められる学力の内容を探り、それぞれの国の教育改革の課題を検討したい。

2004.12.17

原子・分子たちと人間ー量子化学の視点に立った物質観・世界観

講師:永田 敬(化学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系

わたし達の身の回りにあるすべての物質、そしてわたし達自身も、原子・分子で構成されています。つまり、原子・分子の"集まり"なのです。しかし、普段、わたし達はそんなことを全く意識せずに生活しています。そこで本講義では、原子・分子の立場にたって物質や現象を眺めてみましょう。そのためには、眼に見えない原子や分子の本当の姿や性質を知り、それらが眼に見える世界とどのように繋がっているのかをお話しなければなりません。少し難しい話も出てきますが、皆さんが、自分の身の回りに原子や分子の存在を感じられるようになればよいと思っています。

2005.1.21

ヒトゲノムの解読と人権

講師:石浦章一(生物学)

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系

ヒトのゲノムが解読され、ヒトはたった2万4千の遺伝子からできあがっていることがわかってきました。ここから、私たち人間がもつすばらしい能力がどのように作り出されているのでしょうか。この講義では、人間の計算力、記憶力、色の識別能力、体質などを題材に、たった1つの遺伝子の変異が知的能力に大きな影響を与えていることをお話しします。
また世の中では、いろいろな人権問題が騒がれています。ジェンダー(性別)や年齢で人を差別しないとか、職種・障害、戦争、人種、部落、生命倫理などいろいろな問題が出てきているのはご存知でしょう。遺伝子が関係しているのはこのうち3つくらいで、人種、障害(遺伝子変異)、生命倫理についてヒトゲノム研究から現状を紹介したいと思います。

16歳からの東大冒険講座・1
2005.1.21

日米関係の現在と将来

講師:油井大三郎(歴史学)

東京大学大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センター

現在、イラクでは米国が始めた戦争により混乱が続いています。米国のブッシュ大統領は、イラク戦争を始めるにあたり、第二次世界大戦後の日本とドイツの占領で民主化が進展したことを例に挙げ、イラクの場合も成功すると語りました。しかし、現実には戦闘が終結してもイラクの平和は容易に訪れようとしていません。また、このイラク情勢の混迷に日本がどのような態度をとるべきかをめぐっても鋭い意見の対立がみられます。このような現在の状況から日米関係はいかにあるべきなのか、を考えてみたいと思います。その際、2004年が日米和親条約で日本が開国してから150年目にあたることから、150年間の日米関係を振り返りながら、21世紀における日米関係のあり方を考えてみたいと思います。

16歳からの東大冒険講座・2

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