2006年度冬学期プログラム
身体運動から生命を知る・人間を知る
講師:跡見順子(スポーツ・身体運動)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系
本年から東京大学で旧来の体育実習を大改革して「身体運動・健康科学実習」をスタートさせた。その中に新入生3000 人が学習する共通基礎実習5項目がある。まずはじめに、その中の一つ、「身体運動と生命科学」を紹介する。柔軟な高校生の方が本質を理解してくれるかな?という期待がある。生命そのものの創成原理である「自律性システムの追求」をからだの原理としてもつはずの人間を理解することが中心である。しかし、もちろん人間は、チンパンジーとDNAの塩基配列が95%も同じなのに、決定的に異なる世界-文化を創り上げてきた。が、いまその文化が破綻しかかっている。人間は、他のいのちをいただき美食を楽しみ、限りなく人間が便利だと思うように地球を変えてきた。人間である自分自身をどのように活かすのが、人間の本来の姿なのか。それを考え、実践することが生きることではないだろうか。この問題は、実はギリシャの賢人達が残した「汝自身を知れ」、そして日本でも能の世界を整備しつくりあげた世阿弥の言葉-我見、離見という言葉にその本質がある。この視点を私達はいま再び根底から考え直さなければならない。そのための科学や技術は何か。脳細胞も筋細胞も「出力依存性」のシステムで生きている。からだは意識して動かすもの。細胞レベルとからだレベルの二つの原理をどう結びつけるかを皆さんとともに考えます。
変な元素・ホウ素の化学
講師:下井 守(化学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学相関基礎科学系
ホウ素は周期表で炭素の隣に位置する元素ですが、高等学校の化学では、ほとんどほとんどふれられることのない元素です。耐熱ガラスの成分として大量に使用されていますし、植物が生育する上で欠かせない元素であるにもかかわらず、授業でふれられないのは、構造、結合、反応性などが炭素などとはあまりにも違っているため、元素の異端児だからかもしれません。この講義では、ホウ素化学の面白さについて紹介し、化学を見る目を少し変えていただきましょう。
高校生と大学生のための東大授業ライブ第一高等学校校長森巻吉の生涯:やりゃあやれるんだ
講師:岡本拓司(科学史)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
森巻吉(1877-1939)の名を知る人は現在では多くはいない。しかし、少なくとも、東京大学のうち教養学部だけが本郷ではなく駒場にある事情については、森の名前に言及しないで説明することはできない。また、二つの世界大戦に挟まれたまだまだ自由で平和であった時代に、第一高等学校で青春を謳歌した人々の多くは、高校生活を思い出す度に、「モリケン」という愛称で親しまれた英語教師・名物校長のことも懐かしく思い起こしたに違いない。この講義では、決して有名ではないが、自分の人生についてまじめに考え、その考えを実行に移して身の丈にあった生涯を送った人物、つまり森巻吉と、その周辺の人々(父親の森巻耳、師の夏目漱石など)との交わりを紹介しながら、明治・大正・昭和前期という時代がどのような手触りをもっていたのかを想像してみることとしたい。駒場キャンパスと博物館の展示は、そのためのよい手がかりになるものと思われる。(駒場博物館企画関連)
高校生と大学生のための東大授業ライブ宇宙の中のサッカーボール
講師:細矢治夫(化学)
お茶の水女子大学名誉教授
サッカーのワールドカップは終わった。今回そこで使われた公式球は新しいデザインのものだが、1970 年のメキシコ大会で、今はおなじみの黒い正5角形12 枚、白い正6角形20 枚のボールが初めて使われ,今もボールの縫い取りはほとんどこのデザインになっている。一方、化学の分野で大きな話題になっているフラーレンというのは、炭素原子が60 個集まってできたC60 という分子で,その構造は,今使われているサッカーボールと同じである。英国のクロトーと米国のスモーリー等は、1985 年にこの物質を初めて合成し、1990 年にノーベル化学賞をもらっている。この形は,数学では切頭20面体と呼ばれ、準正多面体の中の一つであるが、自然界での存在は極めて珍しい。一方化学でも、炭素にもダイヤモンドやグラファイトのような大きな結晶だけでなく、C60 という安定な分子が存在することがわかった画期的発見だった。更にこの話は,バックミンスターフラードームという近代建築や、宇宙の彼方に存在する星間分子にもつながる。サッカーボールをめぐる数学とサイエンスの話題を提供する。
小説読むべからず---フィクションの魔力 ---
講師:斎藤文子(スペイン文学)
東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻
いまどき小説大好きという高校生は珍しいでしょう。ただでさえ時間が足りない上に、マンガ、インターネット、テレビがありますから、小説を乱読する余裕などありません。それでも周りの大人は、古今東西の名作を読みなさい、と言いつづけているはずです。どうして小説を読まなければならないの? 国語力をつけるため、教養を身につけるため、より豊かな人生を送るため? でもこれらのどの目的も、小説を読まずに達成することができます。小説には歴史があります。ある時代に誕生し、発展し、今はすっかり力を失いました。その長い歴史の中で、若い人には小説を読ませるなという時代もありました。西洋近代小説の元祖とされている『ドン・キホーテ』(あの激安ディスカウントショップではありません)を取り上げながら、小説とは何かについて話します。
現代アフリカとその課題
講師:遠藤 貢(国際関係論)
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻
現代国際社会において、紛争、貧困などアフリカはさまざまな問題を抱える地域である。しかし、先進国に住む私たちからはその問題がそれほど明確な 形で 見えているわけではない。多くの場合、日本人にとってアフリカは「遠い世界」として認識され、そこで生起する問題は忘れられている。そこで、本講義ではアフリカの抱える問題を、ビデオ映像を交えてお話しし、どのようにこうした問題と向き合っていけばよいのかについて考えるきっかけを提供したいと 考えている。
高校生と大学生のための東大授業ライブ英語達人の法則
講師:斎藤兆史(英語)
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
明治以来の日本の英語達人たちの学習法を調べてみると、そこにある共通性があることがわかる。まず、みなとてつもない努力家であること、例外なく膨大な量の英書を読んでいること、文法・読解をしっかりやっていること、などなど。本講座では、そのような学習法を紹介し、達人たちがどのような英語を読んだり話したりしたのかを紹介する。
高校生と大学生のための東大授業ライブ浦島太郎はどこへ行くのか
講師:齋藤希史(文学)
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻
亀を助けた浦島太郎が、竜宮城で歓待されるのはわかります。でも、そのために、家に戻って玉手箱を開けたらおじいさんになるなんて、亀を助けてよかったんでしょうか? いったい浦島太郎の話は何が言いたいのでしょうか? じつは、浦島太郎の物語は、中国の六朝時代までさかのぼる長い歴史があり、『万葉集』にも歌が詠まれています。乙姫さまは亀だった、というバリエーションもあります。この講義では、歴史をたどりながら、この物語のもつさまざまな要素を解明し、人々がなぜそれを語り継いできたのか、お話します。
高校生と大学生のための東大授業ライブ鎖国と造船制限令−鎖国意識の成立
講師:安達裕之(技術史・図学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系
幕府の鎖国政策は、禁教の徹底化と貿易統制の強化と並行して進展し、寛永8 年(1631)から同18 年にかけて一連の法令を制定して完成をみます。いわゆる寛永の鎖国がこれで、大ざっぱにいって、外国との外交・貿易関係の限定と日本人の海外渡航の禁止に主眼を置いています。では、幕府は日本人の海外渡航を禁じるために船にどのような制限を課したのでしょうか。幕府が寛永12 年に500 石積以上の船を禁止し、2 本以上の帆柱と竜骨を禁じた結果、日本の船は脆弱で遠洋航海のできない地廻船となった、と明治以来しばしば説かれてきました。しかし、不思議なことに、帆柱と竜骨の禁止令は幕府法の法令集にその存在を確認できません。そこで今日は明治以来の通説の成立の過程をたどり、日本人が鎖国をどのようにみてきたかを船を通じて明らかにしてゆきたいと思います。
DNAでコンピュータをつくる
講師:陶山 明(生物物理学)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系
DNA と聞いて、皆さんがすぐに思い浮かぶことは、遺伝情報を持つ分子だということではないでしょうか。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という四種類の塩基の配列により、地球上に存在するすべての生命体の設計図を描くことができます。しかし、DNA の塩基配列で書けるものは遺伝情報だけにとどまりません。10 年ほど前、数学的な問題を解くためのプログラムも書けることが示されました。DNA 分子でコンピュータが作られたのです。この講義では、なぜDNA でコンピュータを作ることができるのか、電子コンピュータとはどこがちがうのか、皆さんの生活の中でどんなことに利用できるのか、についてお話をすることにします。