ホメロスと叙事詩の伝統

  1. 日時:2015年7月3日 17時30分から
  2. 場所:18号館ホール(詳細はこちら

東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻

【講義概要】

  西洋古典学は、古代ギリシア語やラテン語で書かれた書物を研究対象とする学問です。たとえば、古代ギリシア語ならば、ホメロスの叙事詩、ヘロドトスの歴史、アイスキュロスに代表される演劇、プラトンの対話篇などです。ラテン語ならば、キケロの弁論、カエサルの『ガリア戦記』、ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』、大プリニウスの『自然誌』などです。なかでも最も古い作品は、紀元前9世紀から8世紀に遡るとされるホメロスの叙事詩『イリアス』、『オデュッセイア』です。しかしこの二つは、そもそも「書かれた」作品ではなかったようです。古代ギリシアには、たとえば紀元前1500年頃には、線文字AとかBとか呼ばれる文字がありました。とくに、線文字Bは古い段階にあるギリシア語を表記するためのものであることがわかっています。しかし、このような文字を用いるような習慣はやがて廃れ、ギリシアは文字の無い時代を経験しました。そのような時代に形成されたのが、神々や英雄が登場するような、口頭で伝えられる物語です。ホメロス叙事詩も、そのような時代に形成されたようです。
 やがて我々にもおなじみのギリシア文字が誕生し、ホメロスの作品も文字で伝えられるようになりました。しかしもともと口頭で伝えられた物語ですから、その本も人によって場所によって多種多様でした。ヘレニズムの時代になると、エジプトのアレクサンドレイアというところに図書館が設けられ、こうした様々なかたちで伝えられているホメロスの本を集めて、どれが本当のホメロス作品なのかという探究が組織的、体系的に行われるようになりました。
 現在の西洋古典学の研究者たちも、時代は大きく異なっても、基本的にはアレクサンドレイアの図書館でホメロス研究を行った学者たちと同じことをしている、と言えるでしょう。授業ではそのあたりのことを、具体的に紹介したいと思っています。

【キーワード】

西洋古典、古代ギリシア、口承叙事詩、ホメロス、話芸

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