憲法思想黎明期の俊英たち―17世紀ネーデルラントのきらめき

  1. 日時:2014年7月11日 17時30分から
  2. 場所:18号館ホール(詳細はこちら

東京大学 大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

【講義概要】

「憲法」や「人権」はどこから始まったのだろう?どういう発展の仕方をしてきたのだろう?こういった問題についてとことん調べて考える仕事があります。憲法史学とか、公法史学と呼ばれる研究領域です。
 今日、憲法というと、幾つもの条文が集まった形をしていて、そこに信教の自由を初めとする人権が並べられていたり、国会や裁判所などの仕組みが定められていたりします。この外側の形に注目すれば、世界史でもお馴染みの、アメリカ合衆国憲法(1788)やフランス人権宣言(1789)、あるいはイギリス権利章典(1689)等々が、憲法の原点ではないかという気がします。けれども、そこに素朴な疑問が浮かびます。こうした文章を起草した人々は、いろいろな人権や国家機構の在り方を、何も無いところから発明したのでしょうか?
そうではありません。ルーツ(roots=根)はさらにその先に、歴史の奥深くへと、まさに根っこのように伸びているのです。この根っこをたどるのが憲法史学・公法史学です。人権とは何か。何で天賦人権と言ったりするのか。そもそも、人権に対置される国家権力とは一体何か。問題が根本的になるほど、深い歴史理解が不可欠になります。
 この憲法史の長い流れの中で、17世紀のネーデルラント(オランダ)が非常に重要な役割を果たしたことは、日本ではほとんど知られていません。しかし実は、平戸・長崎に来ていた人たちの祖国は、その時代のヨーロッパでまさに最先端の議論空間を成立させていました。 世界史資料集を開いてみましょう。グロティウスは「国際法の父」として、スピノザは「大陸合理主義哲学」の代表者の一人として、大体同じページに、しかし、一見あまり相互に関係無さそうに見える文脈で触れられています。しかし、憲法史的視点で見てみると、彼らは非常に近いところで、自由な国家を目指して言わば共闘しているのです。それから「社会契約論」で教科書に出てくるホッブズ。もちろんイギリス人ですが、国家や人間に関するホッブズの斬新な考え方は、知識に貪欲なオランダ人の間で、リアルタイムで大きな反響を生んでいました。
 この講義では、17世紀ネーデルラントで活躍した憲法史上重要な思想家たちについて、歴史教科書が教えない「思想や出来事の繋がり」を、皆さんたちと見ていきたいと思います。

【キーワード】

公法学、歴史、オランダ、国家と宗教

【参考図書】

世界史の教科書や資料集で、16〜17世紀のネーデルラント(オランダ)についての部分、またグロティウスやスピノザ、ホッブズ、デカルトに関わる部分を読み、大きな流れを頭に入れておくと良いと思います。もっと突っ込んで勉強したい人は、日本語で読める通史として森田安一編『スイス・ベネルクス史』(山川出版社, 1998)のほか、スピノザのプロジェクトの鋭い分析として上野修著『スピノザ――「無神論者」は宗教を肯定できるか』シリーズ・哲学のエッセンス(NHK出版, 2006)、グロティウスやスピノザが活躍した時代背景について福岡安都子著『国家・教会・自由――スピノザとホッブズの旧約テクストを巡る対抗』(東京大学出版会, 2007)の第二章「オランダ17世紀における国家・教会・自由」を読んでみて下さい。

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