東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻
<講義概要>
ニュートン(1642−1727)によるプリズムを使った太陽光の分解実験は、エレガントで美しい科学実験のひとつに数えられています。この決定実験は、諸条件を満たした暗室で行われますが、これを「光を複雑極まりない装置によって拷問にかけている」と批判し、自然の光にこだわった独自の色彩研究に着手したのが、ドイツを代表する詩人・ゲーテ(1749−1832)でした。
日本では『野ばら』の詩人、戯曲『ファウスト』の作者など、文豪のイメージが強いゲーテですが、彼は法学部卒の高級官僚であるとともに、さまざまな自然科学分野にも興味を持ち、積極的に関与しました。今回扱うゲーテの『色彩論』は、確かに誤りも多く含みますが、教示篇の生理的色彩の考察は高い評価を受けています。現代のカラー・セラピーの基本となる考え方や絵画にも影響を与えたその色彩研究を中心に、一般にはあまり知られていないゲーテの姿を紹介します。
<参考文献>
ニュートンの決定実験については、R.P.クリース著/青木薫訳『世界でもっとも美しい10の科学実験』(日経BP社、2006年)に詳しい。
文庫本で入手できるゲーテの『色彩論』(木村直司による教示篇のみの訳、ちくま学芸文庫、2001年)。また世界初の完訳『色彩論』(高橋・南大路・中島・前田・嶋田の計5名による翻訳)は工作舎から3巻本で1999年に刊行されている。
またゲーテと自然科学における複数領域の関わりについては拙著『科学する詩人ゲーテ』(慶應義塾大学出版会、2010年)を参照されたい。
*本講義は6月7日開催予定でしたが、講師の都合により6月28日の開催となります。ご迷惑をおかけし誠に申し訳ありません。受講を予定されている方はご注意ください。