フランス「文化」は存在しない?

  1. 日時:2012年10月12日 17時30分から
  2. 場所:18号館ホール(詳細はこちら

東京大学大学院 総合文化研究科 地域文化研究専攻

<講義概要>

 20世紀初め頃まで、フランス語のcultureという単語には、現在「文化」という語が持つ、「一社会、一国家における、文学・芸術・宗教・道徳などの精神的活動全体」という意味は含まれませんでした。当時フランスでもっぱら用いられていたのは、「文明」(civilisation)という語で、人々はこの一語で、文学・芸術・宗教・道徳から、産業・政治体制・社会制度・風俗習慣・科学的成果等に至る、広範な対象を指し示していました。現在でも、ソルボンヌ大学が外国人学生のために開いている語学・文学講座(1919年創設)は、「フランス文明講座」と名付けられています。
  一方、隣国のドイツにおいては、早くから、文化(Kultur)と文明(Zivilisation)の二語が対にして用いられ、しばしば、「文化」は、「文明」より価値が高いという主張がなされました。こうした「文化」と「文明」の二概念の対立は、ドイツとフランスが全面的な戦いを繰り広げた第一次大戦の時期、ついに「ドイツ」と「フランス」を表す二価値の対立(「情念」対「理性」、「伝統」対「進歩」、「個別」対「普遍」等々)として捉えられるようにすらなります。
 講義では、こうした、フランス「文明」とドイツ「文化」の、それぞれの特徴と問題点を明らかにした上で、できれば、現代における「文明」や「文化」のあり方についても触れてみたいと考えています。

<参考図書>
西川長夫『増補 国境の越え方』(平凡社ライブラリー)
ノルベルト・エリアス『文明化の過程 上・下』(法政大学出版局)
E.R. クゥルツィウス『フランス文化論』(みずず書房)

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