インカ史断章

  1. 日時:2008年2月8日 17時30分から
  2. 場所:18号館ホール

東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻

<講義概要>

一六世紀前半、南米史上最大の社会にまで成長していたインカ帝国が、フランシスコ・ピサロ率いる百数十名のコンキスタドールに瞬時に征服されたことはよく知られている。だがスペイン人の到来以前、インカ社会がどのようなものとしてあったのか、たとえばその生成の歴史的プロセスや王権のあり方、あるいは滅亡の背景などについてはまだわからない点もたくさんある。またインカの歴史はスペイン人の征服とともに終わったわけでは決してない。スペインの植民地となった後も、一九世紀まで、かつての王都クスコには、インカ族の末裔たちが、自分たちに流れる「インカの血」を誇り思いながら一種の貴族として生き続けていたのだ。こうした様々な事柄について、私がクスコやスペインでおこなってきた古文書の調査や、最新の研究成果をもとにして話してみたい。神秘のベールに包まれていると思われがちなインカの社会の姿を、少しでもくっきりととらえていただければと思う。