東京大学大学院総合文化研究科・教授
【講義概要】
漱石夏目金之助は1867年に、この世に生を受けました。自分が生まれた年について、亡くなる年の「点頭録」という随筆の中で、「千八百六十七年ビスマークの力によつて成就された北独乙(ドイツ)の連合は、此意味から見て、彼の理想をある程度まで現実にしたものに違なかつた。其結果として凡てに課せられたる義務兵役と、其義務兵役から生ずる驚くべき多くの軍隊とは、支配権を有する普魯西(プロシア)に取つて大いなる力であつた」と述べている。漱石にとって、「義務兵役」こそが「軍国主義」の要として認識されていた。漱石は生涯を終えるときに、「義務兵役」に体現される「軍国主義」と厳しく対峙した。この姿勢をとおして、『吾輩は猫である』から『明暗』にいたる、主要な小説を読み直すのが本講の主題である。