フィクションの冒険者たち─クルーソー、ガリヴァー、サルマナザール

  1. 日時:2016年4月22日 17時30分から
  2. 場所:東京大学教養学部900番講義室(詳細はこちら

東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻

【講義概要】

 『ロビンソン・クルーソー』(1719年)と『ガリヴァー旅行記』(1726年)にはさまざまな共通点があります。どちらも18世紀のイギリスで出版された文学作品であること。架空の旅行記であること。そしてなによりも世界中の人びとに親しまれていること。この講義を受講する皆さんのなかにも、原作は読んでいないけれど、子ども向けの本や映画を通じて内容の一部を知っている方は多いのではないでしょうか。船が難破して無人島に流れ着き、物資もなければ仲間もいない苦しい状況に置かれ、髪も髭も伸び放題の姿で辛抱強く救済を待つクルーソー。小人の国で地面に縛りつけられたり、巨人の国で見世物にされたりと、不思議な冒険の旅を続けるガリヴァー。また、宮崎駿の名作『天空の城ラピュタ』の「ラピュタ」が『ガリヴァー旅行記』に登場する飛行島ラピュータから取られているなど、上記の二作は文学以外にもさまざまな影響をあたえています。
 今回は、この『ロビンソン・クルーソー』と『ガリヴァー旅行記』をさらに面白く読むためのヒントをいくつか提示したいと思います。まず、最初はどちらの作品もノンフィクションとして、つまり本当にあった話として出版されたことをお話しします。ちょっと信じられないかも知れませんが、当時では十分にあり得ることでした。それを理解してもらうために、この二作ほど有名ではないものの、荒唐無稽さにかけては勝るとも劣らない『台湾誌』(1704年)をご紹介します。著者のジョージ・サルマナザールは、本当はフランス生まれなのに、自分は台湾生まれの日本人だと主張して、まんまと当時の人びとを騙しました。どうしてそんなことができたのでしょうか? 18世紀イギリスにおける事実とフィクションとの曖昧な関係について、この時代の本や地図を見ながら一緒に考えましょう。
 次に、『ロビンソン・クルーソー』、『ガリヴァー旅行記』、『台湾誌』、さらにはスウィフト晩年の怪作『慎ましき提案』(1729年)も取り上げて、すべてに登場するカニバリズム(人肉食)の問題について、その背景と意味を考えます。なぜ当時のイギリス人は、これほどカニバリズムに興味を抱き、恐怖を覚えたのか。それを考えることは、意外にも他者をどう理解すべきかという、現代にも通じる問題を解くための鍵をあたえてくれるでしょう。

【キーワード】

『ロビンソン・クルーソー』、『ガリヴァー旅行記』、空想の旅、事実とフィクション、他者への理解

【参考図書】

ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』(武田将明訳、河出文庫)
ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』(平井正穂訳、岩波文庫)
ジョナサン・スウィフト『召使心得 他四篇』(原田範行訳、平凡社ライブラリー)
原田範行『風刺文学の白眉「ガリバー旅行記」とその時代』(NHK出版)

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